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辞めた従業員からの研修費用の回収

  • 執筆者の写真: office138
    office138
  • 2021年1月6日
  • 読了時間: 4分

更新日:2021年1月23日


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研修費用の回収


Q:辞めた従業員から研修費用の回収をしたいが問題ないか?

 未経験の従業員を採用して研修費用をかけて教育しても、やっと使えるようになったころで辞める者がいる。そのように短期間で辞める者から研修費用を回収したい。




A:業務との関連性が低い場合に、研修費用を貸与契約にすることで可能です。逆に、業務との関連性が強い研修は、研修費用の回収はできません

(1)研修費用の回収が可能かどうかは「業務関連性」による

 研修が終わってその後に従業員が退職した。この退職に対して違約金や損害賠償を予め取り交わしておくことは禁止されています。法律で「労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をしてなならない」と規定されているからです(労基法16条)。


 では、研修費用の回収が一切できないかというとそうではありません。過去の判例結果を見ると研修費用回収を有効と認めたものも存在するからです。その判断基準になるのが「業務関連性」です。業務関連性が強い場合は、研修費用回収は不可。業務関連性が弱い場合は、可能な場合があるということです。

 では、「業務関連性」とは具体的にどのようなものでしょうか。

 業務関連性が弱い(=研修費用を回収できる場合)とは、研修の出席が自由で、受験科目を受講者が自由に選択でき、その研修(もしくは資格)が他の会社でも役立つ場合です。


 逆に、研修の受講自体が強制で、かつ受験科目も会社からの指示で、その資格がないと仕事ができない場合は、業務関連性が強い。すなわち、研修費用の回収はできないということになります。


(2)研修費用回収を無効とした判例

 就業規則としての性質をもつ留学規程の中に記載がある「留学終了後5年以内に自己都合退職した場合に留学費用を全額返還させる」旨の規定は、労基法16条に違反して無効であると判断された裁判例(東京地判平10.9.25 新日本証券事件)


 この裁判は、なぜ無効となったのでしょうか。

  • 職場で有用な研修の一つに位置付けられていた

  • 会社が専攻学科(業務に関連のあるもの)を命じていた

  • 留学期間中の待遇も勤務中に準じて定められていた

 すなわち、「業務関連性が強い」と判断されたため無効となったのです。

(3)研修費用回収を有効と認めた判例

 社員留学制度で留学するに際し従業員と会社とで交わされた契約には「帰国後一定期間を経ずに退職した場合には返還する。ただし、一定期間勤務した場合には返還を免除する」という定めがある。これは、返還免除特約付きの金銭消費貸借契約であって、労基法16条に違反しないとして、会社からの留学費用返還請求が認められた裁判例(東京地判平9.5.26 長谷工コーポレーション事件)


 この裁判は、なぜ有効と認められたのでしょうか。

  • 留学生への応募は社員の自由意思によるもので業務命令ではなかった

  • 留学大学院や学部の選択も本人の自由意思に任せられていた

  • 留学での学位取得等は、直接業務に役立つものではなかった

  • 留学での学位取得等は、勤務を継続するか否かにかかわらず有益なものであった

 この裁判は、結論として「本件留学制度による留学を業務と見ることはできず、その留学費用を原告(訴えを起こした従業員)が負担するか被告(会社)が負担するかについては、労働契約とは別に、当事者の契約によって定めることができる」と示しています。すなわち、「業務関連性が弱い」と判断されたため有効と認められたのです。


(4)具体的に研修費用の貸与契約を実施したい場合はどうする?

 以上みてきたように「業務関連性」が弱い場合に研修費用回収は有効となります。研修費用回収には研修費用貸与規程が必要になります。もう一つの注意点として、当該規程を作成する際には、労基法16条が規定する従業員が退職しないような足止め策に該当しないよう注意する必要があります。


 研修費用貸与規程例を挙げておきます。

(1)この規程は、従業員が自らの自由意思で自分のスキルアップのために外部の研修を受講するにあたり、会社が従業員に対して研修費用を恩恵的に貸与することを目的とする。
(2)費用の貸与となる研修は、従業員が自由意思で研修参加の申請を行い、会社が認めたものとする。会社が認めた費用の貸与は、会社と従業員とで金銭消費貸借契約を交わすこととする。
(3)従業員が、自己都合、普通解雇、諭旨解雇、および懲戒解雇により会社を退職するときは、前項の金銭消費貸借契約の定めに基づき、会社が貸与した研修費用を退職時に一括して返済しなければならない。
(4)会社は、従業員が研修終了後、1年間会社を退職しなかったときは、研修費用の貸与額の返済を免除する。(※免除期間が不当に長いと違法)
(5)従業員は、この研修費用貸与が労働基準法第16条(賠償予定禁止)の規定に抵触しないことを理解したうえで貸与を受けるものとする。

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